自分は恵まれている。

 物心ついた時から、僕は何となくそう思っていた。

 もっとも、世間からすればそんなことはなかったのかもしれない。

 というのは、僕は孤児で、しかも生まれてすぐに捨てられていたらしいからだ。でもその後すぐに保護されたというのだから、やっぱり運が良かったと思う。拾われた孤児院もそう悪い環境ではなかったし、とくに嫌な思いもせず、怪我も病気もせず、僕は問題なく成長していった。

 十歳のとき、少しばかり勉強が出来たので、奨学金をもらって都会の大きな中等学校に上がることが出来た。孤児院で一緒だった他の子どもたちの多くが強制的に職業訓練所に入れられていた中で、悠長に勉強させてもらえるというのはありがたい話だ。ある程度は自由に職業を選べるのだから。けれど僕にはこれといった将来像がないままで、少し申し訳ない気もした。

 ただの孤児にしては、これだけで十分恵まれていると思う。

 そうしてもうじき十六歳になろうかという今年の冬、海外に留学することになった。

 しかしこのときばかりは、世の中どうかしているんじゃないかと思った。留学なんて僕は望んだこともなければ、それにふさわしい成績を収めていた覚えもなかった。でも僕が知らされたときには、もう取り消せないほどに学校側が話を進めていたのだから、勝手なものだ。別に悪い話ではない。むしろ過ぎた幸運だ。だから疑わしくて仕方がなかった。人生そういいことばかり起こるわけはない、そろそろ何かあるんじゃないだろうか、と。

 とはいえ断る理由もなく、僕は大人しく留学の話を受けるほかになかった。

 そしてその日、出発の当日。

 僕の漠然とした不安は現実になり始めた。

 ……いや、あるいは――。